2020.02.29

旅するついでに、髪を切る。それくらいがちょうどいい。一流の技術を三崎で受けられる幸せ。

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旅するついでに、髪を切る。それくらいがちょうどいい。一流の技術を三崎で受けられる幸せ。

2020年2月、三崎港ほど近くの三崎銀座通り商店街に『花暮美容室』が開店した。三崎の出版社『アタシ社』の代表であるミネシンゴさんがオーナーとなり、東京の超トップサロンで技術力を磨き上げてきた菅沼政斗さんが店主を務める。

完全プライベートサロンのため、他のお客と同時間帯で予約を受けることは一切ない。ひとりの美容師が、シャンプーから仕上げまでを丁寧におこなってくれる。広々とした店内に、心地いい音楽とハサミの軽快な音が響く。なんとも贅沢な空気を湛えたサロンだ。

一般的に「観光地で髪を切る」という発想はあまりないかもしれない。しかし花暮美容室のコンセプトは「旅するついでに、髪を切る」だという。その真意を探るべく、ふたりに話を伺った。本記事の担当は三根かよこです。

店主の菅沼政斗さん(左)、オーナーでありアシスタントのミネシンゴさん(右)

旅する“ついでに”髪を切る、くらいがちょうどいい

オーナーであるミネシンゴさんも元々は美容師。美容業界誌の編集も経験し、東京を中心とした美容業界のあり方を肌で感じてきた。

「今でも東京の第一線で働く美容師さんたちには尊敬の念をもっています。ただ、オシャレやメイクに気合いを入れて、表参道や代官山に髪を切りにいく……。そういう、わざわざ髪を切りに行くというモードとは真逆の、観光する“ついで”に髪を切るみたいな感覚を時代は求めているんじゃないか?」。

その点で、ミネさんと菅沼さんの思想が一致した。

「自分たちが特別感に疲れていたのもあるし、『旅先で髪を切っちゃう』という偶然性に魅力を感じる。三崎にうまいマグロを食べにきて、ついでだから髪も切っちゃおうかな、みたいな軽やかなモードを自分たちは作っていきたいんです」。

ミネさんは嬉しそうに、花暮美容室を訪れたある青年のコメントを紹介してくれた。

普段交じりあうことのない「旅をする」ことと「髪を切る」ことが一緒になることで、思い出がより厚みを増すし、鏡を見ればその思い出が蘇ってくる。

素敵なことです。カット後は、三崎港周辺をぶらり。髪を切ってスッキリした耳元にふいてきた海風が新鮮でした。

お客様のfacebookより

ミネさんや菅沼さんがぼんやりと思い描いてきた、旅と美容の邂逅が少しずつ始まっている。そんな予感がひしひしと伝わってくる。

元々美容師のミネシンゴさん。現在は編集者 兼 出版社『アタシ社』の代表を務める
1階はミネさんが運営する蔵書室『本と屯』
2階にあがると別空間の『花暮美容室』が現れる
ひとり心静かな時間を味わえる

東京で美容師をやり続ける必然性がなくなってしまった

続いては、店主であり、スタイリストの菅沼政斗さんに話を伺った。

茅ヶ崎出身の菅沼さんは専門学校を卒業後、2つほどのサロンを経て、東京・原宿にある超有名店『DADA CuBiC』に勤めることになる。美容業界で知らない人はいない名店だ。そこで、代表である、故・植村隆博氏に厳しく指導を受け、複雑なカット理論を体に叩き込まれた。「日本におけるカットの礎を作り上げた植村さんとの出会いは、今思い返しても本当に幸福なことでした」と菅沼さんは目を細める。

菅沼さんはまるで骨董品を触るように、優しく髪を扱う

師である植村さんが2013年に亡くなった後も、サロンに残った菅沼さん。しかし、東京でのサロンワークに言いようのない“頭打ち感”を感じはじめてもいた。

「植村さんから授かった技術力があれば、場所は東京じゃなくてもいいのかもしれない」。

その気持ちは次第に大きくなり、2018年に東京でのサロンワークに幕をおろし、ローカルへ向かう決意を固めた。

植村氏が確立した難解なカット理論を学び、確かな技術を得た菅沼さん
「“似合う”髪型を提案するには、一つとして同じものはない骨格や毛流れを理解しないといけない」
スキバサミを使わないのがDADA流。時間はかかるが、その分仕上がりは最高

最高の技術をローカルでも享受できたら、それが一番幸せ

菅沼さんは三崎で美容室を始める前、逗子の美容室に勤めていた。同時に、人口約8000人が暮らす神奈川県・真鶴町での出張美容室を始めた。(現在でも月1回ペースで継続している)

地元のおばあちゃんが営む美容室の一角を間借りしての出張美容室。用意した予約枠はすぐにいっぱいになってしまう人気ぶりだ。なにより、真鶴での日々を通して、「街から求められる美容師」という新しい幸福を知った。

真鶴での出張美容室の様子


「都心から真鶴へ移住した人たちがメインのお客さん。美容室難民になっていた移住者たちがすごく歓迎してくれて。『東京と変わらない技術を、自分たちの暮らす街で享受できたら、そりゃみんな嬉しいよな』って思いましたね」。

東京での刺激的な日々とはまた違う、“街”に求められる美容師という在り方。毎日のサロンワークを通して、菅沼さんは追求し続けている。今後、別の地域でも出張美容室を始めたいと意気込む。

どの街に行ってもスッと溶け込むことができる菅沼さん

街のみんなの髪型をデザインできるって、最高

「旅するついでに、髪を切る」はあくまで対外的なスローガンだ。では、三崎の地元民に対しては、どんな想いを持っているのだろうか?

「この街の人は、僕にとってみんなタレントなんです」と菅沼さんは微笑む。

キャラが濃く、物語の主人公感がある三崎の人々の髪型を、日々デザインする菅沼さん。地元の人の「Before→After」の写真をSNSにUPするミネさん。それらの投稿は大人気で、それを見た地元の人が毎日のように花暮美容室のドアを叩いてくれる。県外から写真を見て予約してくれる人もいるという。まさに地元民がタレントのようだ。

花暮美容室が髪をデザインした街の“タレント”たちが商店街を闊歩する。
「おっ、髪変わったじぇん!もしかして花暮美容室?」。こんな会話があちこちで交わされている風景が浮かんだ。

三崎に暮らすデザイナーさん、ショートが似合う
服飾デザイナーを目指す青年
みんなに愛される街の不動産屋さん
キュートな双子の姉妹

最後に

白状すると、私自身ここ2年ほど菅沼さんに髪の毛を切ってもらっている。髪の毛はずっとコンプレックスの一つだったけれど、最近では「髪型いいね」とか「髪の毛が綺麗ですね」と褒められることが増えた。

菅沼さんに出会った頃は、ハイライトの入れすぎで髪の毛は痛み、枝毛だらけで、もうボロボロ。しかし、今、私は夢にまでみた素直なワンレンボブを手に入れることができている。

筆者の髪も面倒みていただいている



たかが、美容室。いや、されど美容室。
髪の毛はあなたの人生をちょっと変えてくれる可能性をもつ。

「髪の毛を切ることは大げさかもしれないけど、“冒険”だと思うんです。ちょっと切りすぎた前髪も、やりすぎちゃったカラーも、小さな冒険の始まりです」。菅沼さんは笑顔でそう語った。

今日、旅する“ついで”に、髪を切ってみませんか?美味しいものをお腹いっぱい食べて、髪の毛を切って、海風に吹かれてみてください。気持ちいいですよ、きっと。

花暮美容室のPVもぜひご覧ください。楽曲は入江陽、監督は林健太郎、映像は小野田陽一
Information

店舗名:花暮美容室

所在地:神奈川県三浦市三崎3丁目3-6

お問合せ050-3561-9022

営業時間:10:00-19:30 (最終カット受付18:30)

定休日:毎週月・第2、4火

お支払い方法:現金、VISA、MASTER

席数:1席

ホームページ花暮美容室 HotPepperBeauty

三根 かよここの記事を書いた人三根 かよこ
1986年生まれ、千葉県出身。リクルートにて制作ディレクターを6年経験し、その後、桑沢デザイン研究所に入学・卒業。2017年より三崎に暮らし、現在は三崎銀座通り商店街の花暮地区にて夫婦出版社「アタシ社」「本と屯」を運営。三浦・三崎のみんなはキャラが濃くて、人情ドラマの世界を生きているよう。先日お魚くわえたどら猫を初めて目撃しました。

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