2020.08.20

毎朝市場から直送!三崎の超人気店「まるいち食堂」は、味も魚の目利きも天下一品

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毎朝市場から直送!三崎の超人気店「まるいち食堂」は、味も魚の目利きも天下一品

作家いしいしんじがこよなく愛する魚屋「まるいち食堂」。三崎下町商店街にある「ユニバーサル広告社」と書かれた建物を右に曲がると、妙に活気づいている道に同店はある。毎朝、三崎の魚市場に行っては長年培った魚の目利きを頼りに、旬な魚を仕入れている。土日となれば1時間待ちは当たり前、三崎が誇る人気店を今回は仕入れの段階から紹介します。書き手は古川誠です。

市場は戦場。それでもみんな和やかに魚を愛でてては買い付ける

月に一回、三崎で髪を切るようになってから、ぼくにとってこの町は特別な場所になりました。知り合いも増え、今ではすっかり「旅をして、髪を切る」休日がお気に入りに。今日はこの町を代表するお魚屋さん、「まるいち食堂」の店主、すぐるさんと三崎魚市場に8時に待ち合わせ。市場の会場に着くと、すぐるさんはすでに大汗をかきながら魚とにらめっこしていました。

写真左が店主のすぐるさん。右はまるいち食堂のじゅんさん

当日は濡れてもいい靴で来て、と言われショートブーツで行くと、「そんなんじゃ駄目!膝まである長靴に履き替えて!これ貸してやんから」と市場の人が貸してくれて、そこで魚を見る準備が初めてできた気がしました。
会場には数十人の仕入先業者が来ていて、数十分ごとに魚オークションが行われています。見ているだけ楽しい色鮮やかな魚たち。水揚げされたばかりの魚はこんなにも綺麗なんだ。

「活魚(生きている魚)と鮮魚(死んでいる魚)があるでしょ。まずは活魚から見ていく。伊勢海老も活きがいいねえ。毎朝入ってくる魚が違うし、季節によっても変わってくるからおもしろい」
すぐるさんの後ろについて一丁前に魚を見てみるけど、さっぱりわからない。魚の目、色、ツヤ、大きさ、いろいろなところを瞬時に見極めていくすぐるさんは、まさに職人です。

真剣な眼差しで魚を高速で見て判断するすぐるさん。目利きはスピードとの勝負
仕入れた魚をまとめるまるいち食堂のやっちゃんさん。

10時くらいまでぶっ通しで続く魚オークションは、時間とも勝負です。今日仕入れた魚を今日お客さんに食べてもらうからには、仕入れる量も質もシビアに判断しなければいけません。それでもすぐるさんは他の業者さんと仲良く話しながら、本当に楽しそうに魚を選んでいる。すぐるさんに選ばれた魚たちも、なんだか嬉しそうです。

市場から直行!お店に朝獲れの魚が届く

市場から軽トラックで帰ってきたすぐるさん
店に着くとすぐさま魚を並べる

町に戻り、「まるいち」のある路地を入ると、お店の前には開店前だというのに人だかりができていました。三崎の超人気店はお昼ぐらいには長蛇の列ができます。早めに行って、予約表に記入することをおすすめします。

そこへ幸福なお告げを人々に届けるために現れた巡礼団のように、荷台に新鮮な魚を乗せ、仕入れを終えたすぐるさんのトラックがゆっくりと入ってきて、店の前に横付けされました。そしてトラックを降りると、荷下ろしをしながら大きな声で、その日のおススメの魚をわたしたちに教えてくれます。

「このイサキは美味しいよ~。今日はカンパチもいいよ~」

さっき買い付けてきた魚たち。キラキラした魚たちが並んでいる
すぐるさんのお母さんの美智世さん。ピカピカの金目鯛

11時。お店がオープンすると、鮮魚売り場に併設された店内に、並んでいた人たちが吸い込まれ、そして店員さんが鮮魚売り場に次々とやってきます。

「〇〇さん、金目鯛。煮付けで~」「〇〇さま、イサキ、お刺身で~」

店頭にさっき並べられた鮮魚たちが次々と休む間もなく(この状況を休んでいるとはいわないか…)厨房に運ばれていきます。さっきまで生きていた金目鯛が煮付けに。刺身に至ってはその場で3枚におろされ、一瞬にして皿に並べられて店内へ運ばれていきました。この定食が美味しくないはずがありませんね。期待が膨らみます。

店先で見事な魚捌きをみせるじゅんさん。注文が止まらないので大忙し

美味しい魚は「切り方」も大切

トラックの荷台から魚をおろしてからわずか15分。じゅんさんは一時も笑顔を絶やすことなく、ひたすら、そしてつぎつぎに手際よく魚を3枚おろしにしていきます。そして手を動かしながらも、その日の魚のおすすめや食べ方を大きな声で、店頭で魚を眺めるお客さんに伝えています。じゅんさんのよく通る声でリコメンドされると、あれもこれも食べたくなってくるのです。

「その魚は旬だけど、その中でも今がいちばんうまいよ。刺身がいいね」

店頭で迷っていたお客さんは、そのひとことでその魚をオーダーして店内に戻っていきました。

外で選ぶ魚には値段がついていないので、気軽に聞いてみてください。食べ方も一緒に相談するとよし

そこへ近所の常連さんらしきご夫婦がお魚を買いにやってきました。夕食のおかずを買いにきたそうです。じゅんさんは魚をおろす手を止めずに、やっぱり明るい笑顔で対応します。

「お~〇〇さんこんにちは。今日は金目もメダイもいいですよ。珍しいところでいうとそのはじっこのやつ。それ刺身にしたら最高だよ~」

日常の食卓の魚をこうして地元の行きつけの鮮魚屋さんで買うこと。そして朝獲れた魚が当たり前のように夕餉の食卓に並ぶこと。その魚を目利きのおすすめで選ぶこと。世の中はどんどん便利になるけど、この豊かさは、たぶんどんなテクノロジーを持ってしても代替えは不可能だと思いました。三崎に住んでいる人たちが羨ましいです。

まるいちは現在3代目のすぐるさんが、亡くなった初代を継いで店を開けています。社員のじゅんさんとの息もピッタリ。2代の奥様、美智世さんも毎日店頭に立ち、暖かな家族経営で伝統を引き継いでいます。

僕がいちばん感じたのは、まるいちのあるこの路地に漂う多幸感。みんなが笑っているんです。冗談を言い、笑い、常に楽しそうに会話しながら、魚を捌き、常連さんも一見さんにも変わらず親しみの笑顔で対応してくれる。

そしてそれは、伝播するように広がります。美味しいものをいただいたお客さんの笑顔。美味しいものに期待して待っている人たちの笑顔。それらがその路地を明るく照らしているようにさえ見えました。

店脇の路地でも店主のすぐるさんが笑顔で魚を捌いている

マグロの水揚げ漁港として栄えた三崎には、今でも多くの魚料理の店があります。さまざまな名店と呼ばれるお店の中で、まるいちも人気店として知られています。そのなかでまるいちの特徴はなにか? それはいたってシンプルな結論にいきつきます。

まるいちは「新鮮な魚を、新鮮なうちに、適当な大きさに切って提供する」。
それがすべてです。

たぶん美味しい魚に、それ以上は必要ないと思っているのだと思います。すぐるさんは市場から雑魚でも連れて帰ってくるそうです。本マグロから雑魚まで、ここには魚を美味しくいただく「シンプルな魔法」がありました。
それは、「切って、出す!」です。

魚が並ぶ場所の真横に、食堂「まるいち」がある
三色まぐろ定食¥1500
三崎地魚3点定食¥1500

見てください。このマグロ。大トロ、中トロ、赤身。アラ汁とお新香とごはんがついて、なんと1500円です。驚きますね。口の中で絡みつくような大トロが美味すぎて、久しぶりにご飯をおかわりして食べちゃいました。

三崎地魚3点定食は、その日の仕入れによって変わる人気メニュー。この日はメダイ、鯛、イカ。これも同じく1500円。これは毎日通いたいレベルです。

地ダコのブツ。歯ごたえ、新鮮な味がやみつきになる一品
金目鯛の煮付け。美智代さんが持っていた金目鯛がこちら

港町の豊かなお昼ごはん。ごちそうさまでした。お店を出て路地を歩いて海まで歩きました。朝から今までの時間を思い出して、都会で騒いでいた心の中のなにかが、すーっと胸の下の方に沈んでいくのを感じます。髪を切ったら、今日はこのまま港の端っこで昼寝でもしようかな。そんなことを考えながら歩く三崎の町。やっぱりこの町が大好きだと思いました。

Information

店舗名:まるいち食堂

所在地:神奈川県三浦市三崎3-5-12

お問合せ046-881-2488

営業時間:平日 11:00~18:30

ラストオーダー17:30

土・日・祭日 11:00~19:00

ラストオーダー18:00

定休日:水曜日、ときどき火曜日

駐車場:なし。近隣にコインパーキングあり

お支払い方法:現金のみ

席数:28席

古川 誠この記事を書いた人古川 誠
1975年生まれ、埼玉県出身。元OZ magazine編集長。「りんどう珈琲」(クルミド出版)、「ハイツひなげし」(センジュ出版)と、2冊の小説の著者であり、Tシャツブランド「SENTIMENTAL PUNKS」を主宰するデザイナーとしても活動。全国の地域、人を多く取材してきた編集者でもありストリートとカルチャーを愛している

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