2023.05.18

【閉店しました】三浦野菜や魚をふんだんに使った魅惑のスパイスカレー屋「bombaia」。三崎で色鮮やかなミールスを!

【閉店しました】三浦野菜や魚をふんだんに使った魅惑のスパイスカレー屋「bombaia」。三崎で色鮮やかなミールスを!

三崎港のバス停から海南神社の方へ歩くこと数分。
地元で長年親しまれた喫茶店「エンゼル」があった場所に、再び人が集まってきている。
目当ては、副菜が盛りだくさんの色鮮やかなカレー。2022年の12月、かつての喫茶店の装いも残したまま、スパイスカレー屋「bombaia(ボンバイア)」として生まれ変わった。

ここでは「ミールス」と呼ばれるスタイルのカレーを食べることができる。
その全てが、鎌倉のスパイス商社「アナン」の三代目で、「東京スパイス番長」メンバーとしても知られるメタ・バラッツさん直伝。
ついに、三浦・三崎で本格的なインドカレーを食べられるようになりました!

「ミールス」は、南インドを代表する、お米を主食に複数のカレーや副菜が乗ったプレートのことだよ!

まだオープンから間もないスパイスカレーの〝実験室〟。
その魅力を探るため、新人の矢口が取材へと繰り出しました。

三浦野菜を使った色鮮やかなミールス

bombaiaは日替わりのミールスを提供する、ランチ営業のみのカレー屋さん(2023年5月現在)。

1枚のお皿に、数種類の副菜と、パパド(薄いクラッカーのようなもの)、サンバル(スープ)が。そこに日替わりの2種のカレーをお好みでかけていただきます。

取材日のミールスのメニューは、
・人参のサンボル
・ムングのポリヤル
・紫キャベツのハニーサラダ
・大根のサブジ
・レンコンのサブジ
・紅くるりのアチャール
・うずらのアチャール
・八朔と水菜のチャート
・パパド
・春野菜のサンバル
と、盛りだくさん!

そして、メインのカレーは、
・鰯と梅のカレー
・ジンジャーポークカレー
の2種類。

鰯と梅のカレー
ジンジャーポークカレー

やわらかい甘みとほのかな酸味がたまらない「鰯と梅のカレー」に、ピリッと辛くて爽やかな「ジンジャーポークカレー」。異なる味わいのカレーを同時に楽しむことができる。

その日のカレーに合わせて作られたチャイもおすすめ。この日は、ちょっとスパイシーなブラックペッパーチャイ。コクがあるのにすっきりとした複雑な味わいがクセになる。

三浦で歴史の長い農家の「高梨農場」や、農産物直売所「すかなごっそ」などで仕入れた横須賀・三浦産の野菜をメインに使用。お魚は三崎まぐろの老舗「西松」など、地元の魚を積極的に仕入れて使用。
三浦の山と海の恵みをまとめていただけるのも、bombaiaの魅力の一つだ。

そして、スパイスはもちろん鎌倉のスパイス商社「アナン」のもの!

アナンのスパイスは店内で購入も可能

店主は、人懐っこい笑顔が印象的な秋谷悠太さん。
メニューは市場で食材を見ながら考えたり、バラッツさんと一緒に試作しつつ決めたりすることが多いそうだ。

「ミールス全体の構成は、部屋のレイアウトを決める感じに近いかもしれません。気持ちのいい組み合わせになるように、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の『五味』と『温冷』のバランスを取りながら決めています」

一つ一つの副菜やカレーを味わったら、ぜひ全体を混ぜて食べてみてほしい。思わぬ掛け合わせが生み出す味に、きっと誰もが驚くはず!

まさか自分がカレー屋に

bombaiaの店主、秋谷さん

店主の秋谷さんは約3年半前に東京から三崎へと移住。平日は家業を手伝い、週末はカレーを仕込み、お店を切り盛りしている。

もともと、飲食店での勤務経験が豊富だった秋谷さん。三崎のまちづくり会社「波止場商店」のもとで飲食店を開業しないかという誘いが、以前からあったそうだ。

そんな中、三崎の新しいお土産として誕生した「MISAKI CURRY BOOK」の監修者でもある、「アナン」のメタ・バラッツさんとの出会いが転機となった。

スパイスからカレーを作るキット「MISAKI CURRY BOOK」。赤身魚のマサラカレー・青身魚のバターカレー・白身魚のココナッツカレーの3種類がある
創業65年を迎える「アナン」の3代目メタ・バラッツさん。西インド出身の父メタ・アナンさんとともに「スパイスのある暮らし」の楽しさを提案している

「波止場商店の皆さんから『MISAKI CURRY BOOK』が実際に食べられるお店があったらいいよね。秋谷くん、カレー屋をやってみない?』と言われて。そしたら、ぴったりの物件が空いて、とんとん拍子でお店をオープンすることに。僕としては、流れに身を任せたらカレー屋になっていた、という感じなんです」

本を買いあさり、ひたすらにカレーやスパイスの知識を詰め込みながら、バラッツさんに弟子入り。あらゆる仕事現場に同行し、見て学び、聞いて学び、味わって学び。修行の日々を過ごしたという。

「バラッツさんは、国内のいろんな場所でスパイスを使ったイベントやワークショップを実施しているんです。『明日尾道行こうよ』と急に呼ばれたりしても、どこにでもついて行きました」

バラッツさんからの学びと衝撃

秋谷さんには、バラッツさんの〝型〟がしっかり受け継がれている。そしてbombaiaがオープンしてからも、師匠のもとでの学びは続いているようだ。

「スパイスには、基本となる型があります。バラッツさんは型という土台の上に感覚的にスパイスを掛け合わせていき、オリジナルな味を作っていく。それを間近で見ながら、楽しく学んでいけるなんて、得難い経験ですよね」

型はあれど〝正解〟はない。その「スパイスの無限性」に、秋谷さんはどんどんはまっていったという。

「無限の可能性の中から、最終的に選んだものをお客さまに出す。日々実験みたいな部分もあって、いつもドキドキしています。でもそれが面白いし、ちょっと飽きっぽい僕の性格にはぴったりなんですよね」

実は茶道の経験もあるという秋谷さん。茶道の修行過程を示す「守破離」は、型を前提としつつ、型から逸脱していくことを重視する。スパイスはそうした茶道の精神を体現しているとも感じられるそうだ。

〝 strong style curry 〟

bombaiaの店内に置かれているのは、ジム・ジャームッシュの映画のポスター、ビンテージな味わいのインテリア、インドの打楽器「タブラ」など。店内のBGMもマニアックな民族音楽から昭和歌謡までさまざま。多様な文化が溶け合って、不思議と心地良い空間を生み出している。

「空間づくりは服の試着をしている時と似ていて、色の組み合わせとか似合わなさを直感的に判断してます。僕は言語化があまり得意ではないですが、空間やカレーを通して自己表現をしている感覚が強いです」

「お客さまの好みにただ合わせるというよりも、自分が美味しいと思ったものをお客さまと共有したい。独りよがりのものにならないように、バランスをとりながらも自分ならではの〝ストロングスタイル〟は貫いていきたいです」

お店のあちこちに、惜しまれながら他界したプロレス界のレジェンド、アントニオ猪木のフィギュアや絵も飾ってある。
bombaiaのカレーには、感情をリング上で表現していた彼の「ストロングスタイル」に通じる何かが、たしかにある。

友人で画家の落合翔平さんによるイラストも

bombaiaではミールスのほか、クラフトコーラやレモンサワーなどのスパイスを使ったドリンクも提供。スパイスを通した表現をカレーだけではなく、ドリンクやデザートにも広げていきたいと秋谷さんは語る。

「バラッツさんのように、まるで魔法使いのようにスパイスを扱えるようになりたいって思います。カレー屋さんというより〝スパイス屋さん〟になりたい」

船と、カレーと

平日は、家業である船の代理店で働きながら、週末はカレー屋の店主としてお店に立つ秋谷さん。

基本的に一人でお店を営んでいるが、お母様が一緒に立つことも。
「これまでいろんなことをやったり、やめたりしても『変な人でいいじゃん!』と励ましてくれて。ここまで自由にやってこれたのも、母のおかげだと思います」

とっても仲の良い親子

そしてもう一つ、秋谷さんには演劇人としての顔がある。
主宰する「イヌノフ」では、演出・脚本を手がけ、役者としても活動している。

船とカレーと演劇。なんとも素敵な組み合わせ。
現在30歳の秋谷さんはどんな青年期を過ごしてきたのだろうか。興味が湧いて尋ねてみると、面白い答えが返ってきた。

「大学時代、学校にもあまり行かずふらふらと生きていたら、パラオで仕事をしていた父に『パラオに行ってみたら?』と勧められて。パラオに行って半年ほどツアーガイドをやりました。そのまま大学はやめてバンドをやったり、あと友人に誘われてお笑いの養成所に通っていたこともありましたね(笑)」

なかなかの破天荒ぶりだ…!!

時には思い切って遠回りの道を歩んできた秋谷さん。自分の気持ちと正直に向き合ってきた結果、カレーやスパイスと出会い、念願の自分のお店にいま立っている。

「演劇もカレー作りも、自己表現という意味では同じなのかもしれません。手を動かしたり、作ったり、何かを媒介にして人と繋がりたい。そういう気持ちがずっとあるんです。カレーを食べて、美味しいとか、美味しくないとか、いろんなことを感じる。そういう感覚をお客様と共有できることが、僕にとっての喜びですね」

bombaiaは「良い港」

アントニオ猪木のテーマ曲でも聞き馴染みのある、ボンバイアならぬ「ボンバイエ!」は、ゴンゴで用いられるリンガラ語で「やっちまえ!」という意味なのだそう。

一方、店名の「ボンバイア」はポルトガル語で「良い港」の意味。港街の三崎のカレー屋さんにぴったりの名前だ。

ここは小さなわくわくが詰まった場所。
食の体験を共有するための弛まぬ〝実験〟が、日々続いている場所。
次に行くときにもきっと、意外な組み合わせのカレーであっと言わせてくれるはず。

進化し続けるbombaiaのスパイスカレー。ぜひ食べにいらしてくださいね。

imformation

店舗名:bombaia

所在地:神奈川県三浦市三崎4-12−33

お問合せ:050-3690-3130

営業時間:11:30〜15:00

定休日:木金土日のみ営業

駐車場:なし

お支払い方法:現金・クレジットカード・電子決済各種

席数:10席

貸切:要相談

お店の場所はこちら

矢口 莉子この記事を書いた人矢口 莉子
1995年生まれ、東京都浅草育ち。大学卒業後、出版営業と編集、書店員を経て桑沢デザイン研究所に入学・卒業。2022年の冬に三崎へ移り住み「アタシ社」で働きはじめました。「雑貨屋ハプニング」の店長をしながら、グラフィックデザイナーとしても活動しています。豊かな食体験を重ねることが日課の食いしん坊、好きな食べものは豆と芋とパンです。

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