2023.05.31

気持ちのいい音楽と、港の見える商店街。「CULPOOL MISAKI」を楽しむための、三崎の歩き方。

  • 季節のイベント
気持ちのいい音楽と、港の見える商店街。「CULPOOL MISAKI」を楽しむための、三崎の歩き方。

音楽とカルチャーが混ざり合う特別なイベント「CULPOOL」が、6月3日、4日に開催される。今まで恵比寿「LIQUIDROOM」や日本橋「THE A.I.R BUILDING」などで開催されてきた本イベント。今回の舞台は、三崎の小さな個人商店たちだ。

海の香りのする商店街を歩きながら、気持ちの良い音楽にからだを預ける。そんなショートトリップを味わうための、このまちの楽しみ方を、初めて三崎に訪れた筆者・細川がアーティストのラインナップと共にご紹介します。

photo / Shingo Mine text&edit / Sara Hosokawa

食の神に看板建築、見たことのある中華料理屋… レトロでシュールな商店街

京急線で品川から1時間とちょっと。終点・三崎口駅に到着してから、さらにバスで15分進んだ先に、三崎というまちはある。横浜出身の私も、三浦半島といえばマグロが有名……くらいのイメージしかなかった三崎。


京急線三崎口駅で降りたら、京急バスの2番乗り場へ。そこから15分ほどバスに乗ると、三崎港駅に降り立つ。映画のセットのようなかわいい乗降場が目印。

町を案内してくれたのは、出版社『アタシ社』のミネシンゴさん。今回のイベントの舞台のひとつ、「本と屯」の店主である。

ミネさんと歩いていると、まちゆく人に声をかけられる。海のある土地だからか、みんな明るく、清々しい雰囲気。

「今日は包丁式だね!もう見にいった?」。どうやらそれは、神社で毎年行われている、マグロを捌いて奉納する儀式のことらしい。

近所の飲食店から奉納された様々なマグロ料理。
神社に祀られている「食の神」。マグロの上に乗っていてちょっとシュール。

「CULPOOL MISAKI」の舞台になる商店街を歩く。レトロな建物が多いことに気づくと、ミネさんがその訳を教えてくれた。60〜70年代にマグロの水揚げ地として盛り上がった三崎は、80〜90年代には衰退していった。ただ、その後大きい開発などがなかったため、バブル当時の面影を残した建物が残っているということだ。

ファサードが立派な建物の「看板建築」。レトロな風景を見ながらまち歩きするだけでも楽しい。
バブル当時の面影といえば、風情のあるスナックも多い。

さらに歩くと、見かけたことのある外観が。そういえば三崎は、上野樹里さん主演の映画『亀は意外と速く泳ぐ』のロケ地だったことを思い出す。三木聡監督の作品はシュールなものが多くて個人的にかなり好きなのだが、三崎で撮りたいと思った理由がなんとなくわかったような気がした。

『亀は意外と速く泳ぐ』に登場した「中華料理 ポパイ」。松重豊さんが「そこそこの味のラーメン屋」だが実はスパイ、という役を演じていた。

レトロさとシュールさが共存する商店街。小さいまちながらも、見どころがたくさんあり、歩く楽しみを感じる。しかし、三崎の真の魅力は人にありそうだ。このまちのお店は、どこも「人の顔が見える」店。「CULPOOL MISAKI」の舞台となる5つの場所を、さっそく紹介していこう。

舞台① 本と屯

目的なく「ただそこに居ていい」空間、「本と屯(ほんとたむろ)」。三崎のまちを案内してくれたミネシンゴさんと、三根かよこさんの夫婦が営んでいる場所だ。

ここにある本は、売ってないし、借りることもできないが、いくらでも読んでもいいし、逆に読まなくてもいいらしい。なるほど、ここは本を言い訳に、そこに居ていい場所なのか。

「本と屯」の店内。元々夫婦の私物だった本から、寄贈されたものまで、空間にびっしりと蔵書されている。

私が訪れた日は、アルバイトの女性がこの場所のことを説明してくれた。彼女は、三浦半島の面白さを雑誌やイベントで伝える活動をする、横浜市立大学の「三浦半島研究会」に所属しているらしい。「本と屯」では以前からその活動を応援し、合宿のために貸し出したり交流があるため、代々「みはんけん」の大学生たちが店を手伝っている。

私のあとに来たお客さんが店で流れているBGMに反応し、アルバイトの女性と音楽の話を始める。本を眺めていた私も、自然とその話に混ざり、最近行ったライブの話になったり。心地よい時間が流れていた。

2階は美容室になっているそうで、髪を切ってもらった人たちがさっぱりとした顔で階段を降りてくるのも不思議な光景。

2階の「花暮美容室」。東京のトップサロンで腕を磨いた菅沼さんが店を切り盛りしている。

いつでも遊びに行っていい。でも何かをサービスされる訳ではなく、過ごし方はそれぞれにまかされている。意外とそんな場所って少ないかもしれない。

本で埋め尽くされた店内でのライブは、一体どんなシーンになるのだろうか。

本と屯」でのライブだよ!

6月3日(土)12:30〜:北村蕗

6月3日(土)15:15〜:Taka Nawashiro 

6月4日(日)14:00〜:松丸契

6月4日(日)17:45〜:soraya

舞台② HAPPNING

商店街を歩いていると突如、ご機嫌なお店を発見。壁を覆い尽くすように描かれたポップなイラストが目に飛び込んでくる。
ここは雑貨屋「HAPPENING」。こちらも「本と屯」のミネさん夫婦が運営しており、2021年にできたばかり。三崎のお土産はもちろん、全国からセレクトした素敵なプロダクトが集まる。

雑貨屋「HAPPENING」の店内。壁のイラストはunpis(ウンピス)さんによるもの。unpisさんと「HAPPENING」がコラボしたオリジナルノートも販売中。

中でもオリジナル商品に目がいく。「MISAKI CURRY BOOK」は、スパイスからカレーを作るキット。鎌倉のスパイス商社「アナン」と共に作ったこのお土産は、実は後述の「bombaia」店主・秋谷さんを、カレー屋の道に導いた、「ひとりの人生を変えてしまった」商品なのだ(詳しくはこちらの記事へ)。確かに、何かが “起きている”……。

大人気のお土産「MISAKI CURRY BOOK」。

聞くところによると、ここはただの雑貨屋ではなく、イベントや上映会などを行う「文化の発信拠点」なんだとか。落語家を呼び開催した「ハプニング寄席」では、真っ赤な高座も用意され、店が演芸ホールに様変わり。6月10日、11日には芸人・こんにちパンクールを呼ぶ大喜利イベントも企画しているんだとか。

いつも「何かが起きる」場所、三崎に行ったら寄らない手はなさそうだ!

「HAPPNING」でのライブだす!

6月3日(土)16:45〜:北村蕗+梅井美咲

6月4日(日)12:30〜:Taka Nawashiro+シンサカイノ+KAN

舞台③ ミサキドーナツ

地元の人も観光客も、子供も大人も、いろんな人が入り混じる「ミサキドーナツ」。お客さんたちは皆、色々なフレーバーの中からさんざん迷ってドーナツを選んでいるのが微笑ましい。

オーナーの藤沢さんは現役の音楽プロデューサー。2004年に東京から三崎に引越し、住まう中でこのまちに関わりはじめるようになったという。

地元の子供合唱団『かもめ児童合唱団』のプロデュースにはじまり(今ではなんとCDを発売したり、単独ライブも開催しているとか!)、まちのハブ的存在のカフェバー「ミサキプレッソ」を2010年に開店、その2年後にオープンしたのが「ミサキドーナツ」だ。

決められないほどフレーバーの種類がある「ミサキドーナツ」。全て手作りで安心感のある美味しさ。

まだ今のようにカルチャーを感じられるようなお店がないときに、新しい風を三崎に吹き込んだ藤沢さん。このまちに来た人が「自分も何かできるかもしれない」と思えるような空気感をつくってきた人なのかもしれない。

「三崎には電車が通っていないんですね。三崎口で降りて、バスに乗らないとここには来られない。だから、目的を持った人しか集まらないんですよ」。大きな店や流行りの店などが入ってこず、個人が営む「顔の見える店」が多いのは、ここが不便な場所だからこそなのだ。

最近、「働く」ということについて考えている。働くことを「はたらき」と捉え直すと、それは生きていくためのからだの「運動」であるし、「はたらきかけ」という言葉からは、人と人との関係性の中で生まれる相互作用を想起する。三崎に降り立ってみてまず感じた “気” の良さは、「はたらいて」いる人たちが発するエネルギーと、その “めぐり” によるものなんじゃないか、と気づく。

2階はカフェスペース。今までこの場所で幾度も音楽ライブを開催してきたそう。

三崎のまちと人を見守り、やさしくそのエネルギーを循環させ続ける藤沢さんのいる「ミサキドーナツ」。6月3日は「CULPOOL」でRuri Matsumura、6月4日には藤沢さん主催で大塚まさじさんのライブもあるそうなので、あわせて楽しむのも贅沢な過ごし方になりそうだ。

「ミサキドーナツ」でのライブだ!

6月3日(土)18:30〜:Ruri Matsumura

舞台④ bombaia

bombaia(ボンバイア)」は、昨年オープンしたばかりのスパイスカレー屋さん。三浦野菜を使った本格的なミールスが味わえる。

店主の秋谷さんは、家族が三崎で商いをしていたことがきっかけで移住。その後、スパイスやカレーの修行をしてこの店を開いたが、初めはカレー屋になるとは全く想像していなかったという。

三崎の面白いところは、この地に来てから、縁があって流れるように自分の店や事業を始めた人が多いこと。自分も参加できると思える、まちや人の雰囲気がある。

店主の秋谷さん。店は木曜日〜日曜日のお昼時のみオープン。

私が訪れた日は、たまたまライブが開催されていたので、飛び入り参加させてもらった。初めて歩くまちで聴く、初めて知った人の弾き語り。

思い返してみれば、「このアーティストの演奏を聴きたい」という目的がなくライブに行ったのは初めてだった。でもその日に聴いた池間由布子さんは、ファンになってしまって気づいたら東京での次のライブのチケットを取っていたし、共に歌っていた戌井昭人さんも、とても人間味のある人だなと思い気になり、彼が出演しているドラマを観た。

どんな人がどんな演奏をするかも分からずに聴かせてもらったライブは、初めて訪れた三崎というまちの思い出と共に自分の記憶の中にぎゅっと刻まれた。

気持ちのいいまちを歩きながら、流れに身をまかせて音楽を聴いたり、お店の人と話したり。「CULPOOL」もそんな体験になるのかな、と想像してみる。

センスが光る「bombaia」の店内。じっくり見てみるなんだか不思議なアイテムも……。

「bombaia」でのライブはこれだ。

6月4日(日)15:30〜: KAN(Guest 壷阪健登)

舞台⑤ 提灯東京™ 1号店

昨年12月にオープンしたばかりの「提灯東京™ 1号店」。昼に店を開けて翌日深夜3時までオープン、しかも定休日なし、というかなりマッチョな店である。

私は以前から店主の石井さんとお友達で、彼が色々なフェスやイベントに出店したり、間借り営業をしていたのを見ていたため、初めての店舗を三崎に出すと聞いたときはかなりびっくりしたものだ。実は先述の「bombaia」店主・秋谷さんとは中学の同級生で、彼をきっかけに流れ着くように三崎にやってきたんだとか。

いかにも居酒屋の店主らしい見た目の石井さんが作るお酒や料理は絶妙な美味しさ。自家製のバイスサワーや、油そば、冷麺といったメニューも、安心感がありつつもどこか味わったことのない新しさがある。

店主の石井さん。さまざまなフードカルチャーが交錯する、三崎の新しい飲みカルチャースポット。

夜は遅くても22時くらいにクローズする飲食店が多い三崎の中では、まだ飲みたりないときに2軒目で行ける数少ないお店のひとつ。元々スナックだったユニークな店内で地元の人たちとお酒を交わしてみるのも、ディープな楽しみ方になりそうだ。

ライブのあとも営業するそうなので、夜の三崎を味わいにのれんをくぐってみては。

元々スナックだったという店内。広々としていてライブ会場にぴったり。

「提灯東京™ 1号店」でのライブだわ!

6月4日(日)16:30〜:松丸契+大井一彌

会場以外にも魅力的なお店がたくさん。音楽がまちに溶け込む2日間を楽しもう

ライブの舞台以外にも、三崎には素敵な人が営む、魅力的なお店がたくさんある。「CULPOOL」の2日間は、その日その場所だけの音楽という非日常と、三崎の人と店という日常を行き来しながら、まちを五感を使って存分に楽しんでみては。

筆者おすすめのお店はこちら!

・「ミサキプレッソ」…「ミサキドーナツ」藤沢さんがオーナーをつとめるカフェバー。ムニエルやパスタなど、ビストロ顔負けのフードも見逃せない。オールデイでコーヒーやワインを楽しめる、大切な友人と来たくなるお店。

・「蒸籠食堂 かえる」… 店主・みかさんのつくる、せいろで蒸した料理やお酒が楽しめるスナックのような食堂。ひとりでも入れる気軽さが嬉しい。私はたちまち「かえる」の魯肉飯の虜になってしまった……。

・「たべごとや みなと」… 笑顔が素敵な姉妹、朱里さんと楓さんが営む、多国籍料理のお店。お昼はお弁当とお惣菜の販売、夜は多様なお酒も用意され、店内で食事を楽しめる。見たことのない素材の掛け合わせが面白い!

・「3204」… 甘いものでリフレッシュしたくなったら。鎌倉のフレンチ「OSHINO」と三浦のベーカリー「充麦(みつむぎ)」、名店同士がコラボしたお店。デニッシュにジェラートをサンドした逸品は食べ歩きにぴったり。

・「牡丹」… おすすめ、というより、まだ行けていないけれど絶対に行きたいお店。三崎の誰に聞いても「あそこは最高だよ」と太鼓判を押される町中華。

ここに載っている以外にも、まだまだ惹きつけられるお店はたくさん。いい場所は地元の人に教えてもらうのがいちばんなので、行く先々でおすすめを聞くのもいいかも!

三崎にはあちこちに野良猫が。ひなたぼっこしていて気持ちよさそう。

「CULPOOL MISAKI」タイムテーブル

出演アーティスト

北村蕗

独創的な楽曲とトラックメイクで話題を呼ぶ2003年生まれの音楽家。6月3日にはソロセットを開催、6月4日には梅井美咲とのコラボセットも。

Taka Nawashiro

ニューヨークでの音楽経験を積み、多数のセッションでのスピリチュアルな演奏が話題を呼ぶギタリスト。6月4日には、ベーシストのシンサカイノ、パーカッショニストのKANを迎えてトリオ編成でライブを展開。

梅井美咲

ポピュラーからジャズまで幅広いジャンルの演奏で注目の新世代ピアニスト。今回は北村蕗とのコラボセットを披露。

Ruri Matsumura

日英をクロスオーバーしたリリックに卓越したソングライティングを展開するシンガーソングライターで、エクスペリメンタルロックバンド「wlz」のボーカリスト。

松丸契

「Apple Vinegar Award」で大賞を受賞した、即興演奏を通して空間と時間と楽器と身体の関係性を探るサックス奏者、作曲家。6月4日に14時からはソロセット、16時半からは「yahyel」、「DATS」等でも活躍しているドラマー/トラックメイカー・大井一彌とのコラボセットも。

soraya

JAZZフィールドで活躍中のピアニスト壷阪健登と名門「Verve」よりメジャーデビューしたばかりのベース&ボーカリストの石川紅奈によるユニット

CULPOOL MISAKI

6/3.4と三崎港にて「CULPOOL MISAKI」開催!
2015年音楽とカルチャーが混ざり合う、特別なパーティとして恵比寿LIQUIDROOMでスタートした音楽イベントCULPOOL。今回は神奈川県三浦半島の最南端、三崎港にある商店街を舞台に「CULPOOL MISAKI」を開催することが決定しました!

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ミネ シンゴこの記事を書いた人ミネ シンゴ
1984年生まれ、横浜市出身。美容師4年、美容雑誌編集者2年、リクルートにて企画営業を3年半経験し2015年に夫婦出版社「アタシ社」を設立。2017年より8年住んだ逗子から三崎に拠点を移し、三崎銀座通り商店街に「本と屯」をオープン。2020年2月には本と屯の2階に「花暮美容室」を開業。下町でほぼ毎日飲んでいる、人たらしな編集者。

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